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PBW『エンドブレイカー!』シゾー・フイユ(c04150)の忘備録
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 昼間は誰かしらがいて騒がしいキッチン。
 それに対し、真夜中は静かで誰もいない。
 窓からは夜空の光が差し込むだけの、灯りすらつけないその暗闇の中、少女は手に握ったフォークをじっと見つめる。
 早鐘のように心臓の音がうるさいのも、早くなる呼吸も、震える手もすべて無視して、一度だけ強く目をつぶり。覚悟を決めたように一度大きく息を吐いてそれから。
 それを己の目へと突き刺さんと振りかぶり──

 暗闇に赤色が舞った。


 痛みは無い。当たり前だ、刺さったのは自分の目ではなく、良く知ったしわがれた手。
 幼子の力とはいえ、抉らんと勢いよく振り下ろしたそれはその手を少しだけ抉っていた。
「いけない子だ、こんな危ないことをして」
 ふわりと後ろから包み込むような声が響く。
 目を見開き後ろを見やれば穏やかに笑う老人がいて。
「おじいちゃん!?」
「儂はかくれんぼは得意でなァ。小さいのが怖い顔をしてこの部屋に入った時からずーっと見とったんだが、」
 少女の驚きと非難を含んだ呼び声に、呼ばれた老人はからりと笑って無事な手で少女の頭をなでる。
 刺さった形になったフォークはそのまま簡単に取り上げしゃがむと、くるりと向かい合うような形を少女にとらせ、顔を覗き込む。
 暗闇の中、同じ灰色をした眼は向かい合い。
「どうしてこんなことをしたのか、じいちゃんに分かるように教えておくれ」
 年を重ね落ち着きのある灰色が問う。
 若い灰色は数回、瞬きをして、ぱたりぱたりと涙をこぼし始めた。


 ──いいかい、小さいの。誰かの目に悪いものが見えたら、まず私たちに言うんだよ。
 物心ついた時から祖父母が繰り返し自分に言い聞かせた言葉がこれだった。
 隣の家の長男が野犬に食い殺される、気持のいい笑顔で挨拶をしてくれる果物屋の婦人が階段から落ちて死んでしまう、八百屋の店主が泥棒に殴り倒される。
 見るたびに怖かったそれらを、包み隠さずきちんと少女はすべて二人に伝えた。
 するとどうだろう、終わりは訪れずに誰もが平和に暮らせたのだ。
 あの得体のしれない、ただ来ることしか分からない気持の悪い未来は変えることが出来るのだと、そう、思えた矢先。
 自分が見た終焉を伝えた結果祖父は大けがをした。
 祖父は油断したのだと言っていたがそうではない。
 『自分たち』の目には終わりは映らない。
 『自分たち』の身に起こる不幸は、誰にも予測はできない。
 この結末を、招いたのは、自分だ。


「……おてて、ごめんなさい」
「小さいのの目が傷つかなかったことに比べれば大したことじゃァない」
「ごめんなさい」
「儂は大丈夫だ」
「こわかったの」
「そうか」
「おじいちゃん、いっぱい、けがしてた」
「ばぁさんの癒しの風ですぐ治ったのを見たろう?」
「みんな、こわくないんだと思ってたの」
「怖くはないさ、小さいの。お前が傷ついてしまう方が儂にとっては怖い」
「ごめんなさい」
 私が、怖かったの。
 この目で見えるものも、その行き先の結末も。


 泣きじゃくる声を押し殺すように祖父にしがみつき、少女はすべてを吐きだし。
やがて嗚咽は小さくなって小さな少女が眠りに入って老人は呟く。
「小さいのは泣き虫だなァ」
 柔らかに頭を撫でる手は慈しむように。
ああ、どうか、この子の行く先が、明るい未来であるように。
この目を、きっと少女が生まれながらに持っていたのは近くに自分たちが居たからかもしれない。
背負わせてしまった罪悪感を拭うような祈りは誰に向けるわけでもなく、そして夜はふけて。


(私はこの目が嫌いだった)

シゾーが6歳ぐらいの頃のお話
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プロフィール
HN:
シゾー・フイユ(c04150)
性別:
非公開
自己紹介:
ciseaux_feuille□hotmail.co.jp
メッセです。
シゾーとお知り合いの方なら大歓迎。
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